gauloisの日記

随想その他

巖谷國士-「シュルレアリスムとは何か」より第二章-メルヘンとは何か

 メルヘンとはもともと、ドイツ語のメールヒェン(Märchen)を指して「お話」という意味。日本語では、少女の好む夢のような世界をメルヘンと呼ぶ。しかし、ほんとうの意味ではない。きれいな日本語になおすなら「おとぎばなし」。

 「メルヘン」は、とてもフワフワしていて優しい気持ちになる単語であるけれど、もともとは子どものためのお話ではなかった。というより、17世紀ぐらいまでは子どもが存在していなかった。


 どういうことかと言うと、私たちがいま語ったり見たりしているような子どもはいなかったのだ。でも「小さな人間」は存在した。つまり、大人の小型として、子どもが存在していたのだ。

 たとえば15〜16世紀の絵画を見てみる。ピーテル・ブリューゲル「子どもの遊戯」では、村で遊んでいる子どもの光景が描かれているけれども、その子どもたちが着ている服は大人のお古なのだ。袖を切り取って着ている。


 児童文学あるいは童話についてもこれと似たことがいえる。「監獄の誕生」「狂気の歴史」で知られるミシェル・フーコーのことばを借りるなら、"学校制度が子どもをつくった"のだ。つまり、システムのほうが先に生まれているということである。


 ここで、「おとぎばなし」の定義を確認する。とぎ(伽)は、暇なときに相手をすること・朝まで添い寝をすることをいう。昔は、貴族に伽をするための女官がいたという。「夜とぎ」となると、多分にエロティックな意味あいにも使える。夜の慰みってことだね。


(続く)